前回は「猫背と首・肩の痛み」の関係をお話ししました。今回はその続編。「腕を上げると肩が痛い」「肩が前に入っている気がする」——そんな方に多い「巻き肩」に注目します。理学療法士のマウリが、①巻き肩と肩の痛みは関係あるのか ②なぜ痛むのか ③どう整えるか を、研究をもとにわかりやすく解説します。
📖 前回の記事:猫背が痛みの原因? 首・肩の痛みとの関係を理学療法士が解説 はこちら?そもそも「巻き肩」とは?
「巻き肩」は、肩が体の前・内側へ入り込み、肩甲骨(けんこうこつ)が外へ開いて前に傾いた状態のことです。前回お話しした猫背の3つの特徴(頭が前に出る・背中が丸まる・肩が内側に入る)のうち、3つめにあたります。
巻き肩では、肩甲骨が「外に開いて・前に傾いた」位置に固まりやすい
30秒でできる 巻き肩セルフチェック
手の甲が正面を向いているなら巻き肩ぎみ。親指が前を向くのが目安です。
肩の後ろが床から浮いている(指が2本以上入る)なら、胸の筋肉が硬くなっているサインかもしれません。
※あくまで目安です。左右差がある方や、痛みが強い方は無理に行わないでください。
1巻き肩・猫背と肩の痛みの関係
まず、前回と同じく正直にお伝えすることから始めます。
では、姿勢は肩と無関係なのでしょうか?——実はそうではありません。同じ研究のまとめで、「丸まった姿勢だと腕が上がりにくい」ことについては、強い根拠があるとされています。これは肩の痛みがある人にも、ない人にも共通でした。
背中を丸めた姿勢と、背すじを伸ばした姿勢で比べた実験では、丸めた姿勢のほうが腕の上がる角度が約20度前後小さくなり、腕を上げる力も約16%弱くなったと報告されています。
②のほうが、スッと高く上がりませんか? これが「姿勢が肩の動きを変える」ということです。
巻き肩・猫背は痛みの原因というより、肩が動きにくく・負担がかかりやすくなると考えられています。
2メカニズム — なぜ肩が痛くなりやすいのか
カギを握るのは「肩甲骨の動き」です。腕を上げるとき、動いているのは腕の骨だけではありません。肩甲骨も一緒に「上向きに回り」「後ろに倒れる」ことで、腕が高く上がる“スペース”をつくっています。
巻き肩で起こりやすい“悪い連鎖”
スマホ・パソコンで腕を前に出す時間が長いと、肩甲骨を前に引っぱる小胸筋が縮んだ状態に慣れてしまいます。
小胸筋が短い人は、腕を上げても肩甲骨が前に傾いたままになりやすいことが研究で示されています。
肩の屋根にあたる骨(肩峰)と腕の骨の間には、腱(腱板)やクッション(滑液包)が通るすき間があります。肩甲骨がうまく倒れないと、このすき間が狭くなります。
腕を上げるたびに腱がこすれ、炎症や痛みにつながることがあります。これを「肩峰下インピンジメント(肩のはさみこみ)」と呼びます。
もっと詳しく:「肩峰下インピンジメント」とは?
「インピンジメント(impingement)」は英語で「衝突・はさみこみ」という意味です。肩峰下インピンジメントは、肩の屋根(肩峰)の下を通る腱やクッションが、腕を上げる動きの中でこすれたり圧迫されたりして痛む状態のこと。肩の痛みの原因として、とても多いもののひとつです。
腕を上げる途中で、腱や滑液包が肩の“屋根”の下でこすれて痛む
| 関わる部位 | どんなもの? |
|---|---|
| 肩峰(けんぽう) | 肩甲骨の一部で、肩のいちばん上にある“屋根”の骨。 |
| 腱板(けんばん) | 腕の骨を肩のくぼみに引きつけて安定させる4つの筋肉の腱。とくに棘上筋(きょくじょうきん)の腱は屋根のすぐ下を通るため、負担を受けやすい部分です。 |
| 肩峰下滑液包 (かつえきほう) | 屋根と腱の間で摩擦を減らすクッションの袋。ここに炎症が起きると強い痛みが出ます。 |
痛みなし60〜120°
ここで痛む120°〜
やや楽に
そのほか、こんな場面で痛みを感じやすいのが特徴です。
- 洗濯物を干す・高い棚の物を取るなど、腕を上げる途中で肩の外側〜前が痛む
- 上げた腕を下ろすときにも痛む
- 上着の袖に腕を通す・髪を結ぶ動作がつらい
- 痛い側を下にして寝るとうずく
最新の考え方:「骨がはさむ」だけでは説明できない
かつては「肩峰の形や骨のトゲ(骨棘)が腱を物理的に削っている」と考えられ、骨を削る手術(肩峰下除圧術)がよく行われていました。しかし近年の研究で、この考え方は大きく見直されています。
イギリス(CSAW試験)とフィンランド(FIMPACT試験)の大規模な研究では、骨を削る手術と、関節鏡で中を見るだけの「見せかけの手術」とで、痛みや肩の使いやすさの改善にほとんど差がありませんでした。
日本の一般住民を調べた研究では、約5人に1人に腱板断裂が見つかり、そのうち約3分の2は痛みのない人でした。画像で見つかった変化が、そのまま痛みの原因とは限りません。
そのため最近は、骨の衝突だけをイメージさせないよう「腱板関連肩痛(Rotator Cuff Related Shoulder Pain)」という呼び方も広まっています。腱の負担への耐性の低下(急な使いすぎ・逆に使わなさすぎ)、筋力や肩甲骨の動き、睡眠やストレスなど、いくつもの要因が重なって痛みが出ると考えられています。
3巻き肩の対策 — 「ゆるめる・鍛える・使い方」
うれしいことに、肩甲骨を安定させる運動で、肩の痛みや使いにくさが改善したという研究のまとめがあります(肩峰下インピンジメントの方を対象とした複数のランダム化比較試験)。ポイントは前回と同じく3つ。『縮んだ胸をゆるめる』+『肩甲骨を支える背中の筋肉を鍛える』+『腕の使い方を見直す』です。
ゆるめる① 壁で胸ひらきストレッチ
壁の横に立ち、肘を肩の高さで90度に曲げて前腕を壁につけます。そのまま体をゆっくり壁と反対側へひねり、胸の前が気持ちよく伸びるところで止めます。
⏱ 30秒 × 左右2〜3回/1日1〜2セットNG:腰を反らせる・肩をすくめる。胸の前が「伸びて気持ちいい」程度で十分です。
鍛える② 壁スライド(ウォールスライド)
壁に向かって立ち、小指側を壁につけて両腕を「ハの字」にします。肩甲骨を少し外へ広げるイメージで、腕を壁にそわせてゆっくり上へすべらせ、ゆっくり戻します。
🔁 10回 × 2セットNG:痛みが出る高さまで上げる・肩をすくめる。痛みの手前で止めればOKです。
鍛える③ うつ伏せY字あげ
うつ伏せでおでこの下にタオルを置き、両腕を頭の斜め上に「Y」の字に伸ばします(親指は天井へ)。肩甲骨を背中の下へ引き下げるイメージで、腕を床から少しだけ浮かせて3秒キープ。
🔁 3秒キープ × 10回 × 2セットNG:腰を反らせて高く上げる。数cm浮けば十分です。背中の“下のほう”に効いていればOK。
④ 日常の「腕の使い方」を見直す
- 高い所の物を取る前に、まず背すじを伸ばす。それだけで腕が上がりやすくなります(「ためしてみましょう」の実験を思い出してください)。
- パソコンは肘を体の近くに。キーボードやマウスが遠いと、肩が前に引き出されます。
- スマホは胸の高さまで持ち上げる。前回の「あご引き」とセットで行うと効果的です。
- 同じ姿勢は30分まで。立ち上がって肩を大きく回すだけでもリセットになります。
- 夜、寝ていても肩がうずいて目が覚める
- 自分の力では腕が上がらない/転んだ・ぶつけたあとから痛い
- 腕や手にしびれがある
- 痛みが2〜3週間たっても変わらない、または悪化している
✓まとめ
肩の痛みのカギは肩甲骨。
「動ける環境」を整えれば、肩は軽くなる。
この記事のポイントをまとめると、次の4つです。
姿勢だけで肩の痛みが決まるわけではありません。
これは研究で強く裏づけられています。
腱がこすれる「肩峰下インピンジメント」につながることがあります。ただし最近は「骨がはさむ」だけでなく、腱が負担に耐えられるかが重視されています。
壁ストレッチ+壁スライド+Y字あげから始めましょう。
それだけで、肩はもっとラクに動きます。
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